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富士通、廉価版スパコン(’09/12/18

 

今朝の日経に表題の記事が載っていた。富士通は国家プロジェクトで世界最速の演算能力を目指すスパコンの開発を得たノウハウを活かして廉価版スパコンを中堅企業向けに販売するのだという。この廉価版スパコンはPCクラスタなそうだが、筆者は一抹の不安を感じる。

 

スパコンの開発予算が復活したことは先ずもって慶賀するとしよう。が、記事によると、スパコンは専用MPUを多数搭載したスーパークラスタになる予定だが、廉価版スパコンは汎用MPUを搭載するとのことだ。「世界一のスパコン専用機で蓄積したソフトプエアなどの技術は、クラスタ方式の廉価版にも応用できる」とは言うが、スパコンのソフトというのはハードの性能を最大限に発揮する為に精緻なコーディングを要するものなのだ。従って専用MPU用のコーディングをそのまま汎用MPU様に移し替えても同等の性能が出る保障は全くない。クラスタ用のシステムソフトにしても、専用MPUと汎用MPUの振る舞いは相当違うだろうから移植するにはほとんど書き換えに相当する作業が必要になるかも知れない。

 

つまり、ノウハウを転用するというのはそんなに簡単なことではないのだ。専用MPUの設計者はむしろ思いっきりハード寄りの設計をしてソフトのポーティングを犠牲にしてしまうのではないかと、余計な心配をしてしまう。

 

ハードに寄りすぎるとトータルなコンピュータビジネスがコケかねないのは、セルを搭載したプレイステーション3と任天堂のWiiを比べれば良く分かる。筆者が勤務していたControl Data Corp.(CDC)でも、独自開発したスパコンが失敗して、スピンアウトしたクレイ・リサーチが成功したという歴史の教訓がある。処理速度が2倍になりますと言うのでシステムを20億円で買ってもアプリ・ソフトの書き直しに15億円かかるのでは、ソフトの互換性があり、そこそこの性能のクレイのスパコンを25億円程度で買ったほうがお買い得ということになる。CDCのスパコンは液体窒素にCPUユニットを浸して冷却するなど興味深いハードと超クラスタ構成のアーキテクチャだったが、会社自体がコケてしまって世界中の社員が苦労したことは以前述べた。

 

日の丸スパコンは誰が旗振りしているのか知らないが、上に述べた視点と総合的な戦略が無ければ富士通に無理やりババをつかませてしまうことになろう。