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クラウドって何だ?(2010/1/19) 

 

IT業界はいくつもの流行語(buzzword)が出ては消える。新概念や状態を一言で言い表せるので便利だからだが、これを使うと最先端を走っているイメージが出せるのでジャーナリストやコンサルタントには便利だ。 昨年流行ったのはWeb2.0だった。流行り始めのころはWeb2.0と言うと、インターネット利用が次の段階に入ったんですよ、というイメージが出せたのだが、余りに普及してしまうと、「で?」と思われて、今はもう誰も口にしないみたいだ。

 

企業やジャーナリストらが新しい概念やビジネスを広めようとして仕掛けた言葉がヒットすると流行語となる。流行語だけを追えばただただ目まぐるしく変化が激しい様に思える。しかしその背後にある業界の技術の流れを理解していれば、なぜこの言葉がヒットして流行語になったのかが理解できる。

 

今年の流行語は「クラウドコンピューティング」だろう。GoogleSalesForce.comらのビジネスモデルを宣伝する関係で広まって来た言葉だが、日経新聞の正月版でも特集するに至った。IBMやMSの米国企業はすでにクラウド対応のデータセンターを建設している。日本企業も例によって後追いをして、クラウドに対応してますよ、と言っている。「既存のデータセンターサービスとどう違うの?」と言いたくなる。(本当は違うのに。)なぜ今回も日本企業は後追いのイメージになってしまうのだろうか?

 

クラウドに近い概念のサービスは1970年代から既にあったと筆者は考える。例えば、当時米国のControl Data Corp.はスーパーコンピュータセンターを世界に10か所構築してそれを有機的にリンクさせたTSS(Time Sharing Service)を提供していた。日本には東京池袋サンシャイン60の3階にスパコンセンターがあり、筆者はその運営とビジネス展開に従事していた。日本のユーザは池袋のセンターまで電話してdumb端末でアプリを呼び出せば世界のどのセンターにあるアプリでも呼び出して使うことができたのだ。これってクラウドじゃないか? 違いはインターネットプロトコルを使わないことと通信速度くらいなものだろう。当時の通信速度は110bpsとか、早くて1200bpsだった。つまり1秒に10文字から120文字程度しか送れなかったのだから、送受信するのは文字だけで、画像、音声、映像なんてトンデモナイだったのだ。

 

このTSSはクライアント/サーバの普及、パソコンの普及によって衰退したが、その理由は、第一に伝送速度の遅さだった。文字をディスプレイ上を目で追える速さでしか出力できなかったのだから、8bitのPCの方がよっぽど操作性が良かったのだ。しかし、このTSSサービスは、一時期すごく儲かった。客先にIT設備を入れなくても客やサービスが利用でき、サービス提供側も設備投資額が少なくて済み、かつ定常的にチャリンチャリンと売上げが発生したからだ。

 

そして時代が移ってブロードバンドの時代になった。今日本では殆どの家庭で1Mbps以上の伝送帯域が利用できる。世界トップのブロードバンド環境を達成したのだ。日本政府とNTTを含む日本のIT企業はこのことを世界に自慢した。しかし、惜しいことに、彼らはこのブロードバンド環境を、せいぜいビデオを流すのに使おうという程度以上に、どう活用して日本のIT産業を立て直したら良いか分からなかったみたいだ。そして、Salesforce.comGoogleが日本でも成功し出し、彼らがクラウドという言葉を使うようになってやっと自分たちが何の為のインフラを構築したかを理解し出したのではないか?

 

TSSが端末の帯域不足の為に衰退した後、豊富な帯域が利用できる環境が成立したので、TSSが変身して復活したのがクラウドだ、と見れば技術とビジネスは深く繋がっていることが分かるだろう。

 

この項続く。