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変革はなぜ上手くいかないのか?続き (2010//19)

科学少年の限界を打ち破るには 

 

先週、東京国際フォーラムで開かれた富士通フォーラムに行って来た。いくつか面白い体験をしたので報告しようと思う。

 

電子ペーパーを展示していたので体験してみた。製品としては画像の切り替えが気になったのだが、アマゾンのキンドルやアップルのiPadが話題になっているので、説明担当に、「どうしてこの製品がキンドル並に話題にならないんですか?」と聞いてみた。向こうは誠実に答えてくれたのだろうが、やっぱりなあ、と思わせる答えだった。つまり、製品のこの部分やあの部分の機能をもっと改良しないと、という答えに終始したのだ。 

 

別に富士通のこの担当者を責めている訳ではないが、富士通に限らず、日本のIT企業の技術者で開発現場のリーダーレベルの人と話しをすると、大体この様な返事が返ってくる。キンドルやiPadが話題になっているのは、電子ペーパー端末だけのせいではなく、コンテンツを含むトータルなサービスが社会をどう変えるかという期待値のせいなのだ。この電子ペーパー端末を使ってこういうサービスを提供するので実際に操作方法はこうなるので云々という答えを期待していたのだが。

 

ビジネスはそれを推進する者が見えている世界の広さ以上には広がらない。端末しか見えていない人が推進するビジネスは端末だけのビジネスに限定されてしまう。結果、アマゾンやアップルの様な、装置とコンテンツを組み合わせた壮大な地球規模のビジネスモデルを構築し、その中で電子ペーパー端末の仕様を定義する会社にイニシアティブを取られてします。彼らのビジネスに端末をどう採用してもらうか、ということになり、韓国製や中国製と価格の叩き会いになり、結局儲からないで終わってしまう。ものづくりの技術はあるのに残念ですね、ということになる。

 

折しも、同じ富士通フォーラムで、小川紘一氏(東京大学知的資産経営・総括寄付講座)の「日本における今後のものづくり企業戦略」と題する講演を聞いた。氏はDRAMメモリ、液晶パネル、DVDプレイヤー、太陽光発電パネルなどを例に取り、日本のこれらのハイテク産業が低収益な部品供給に留まり、韓国、台湾等の競合相手に勝てない構造的な問題を指摘しておられた。特に、日本のハイテク産業が部品でしか儲けていない件には、わが意を得たり的な説だったので拝聴していて心強かった。

 

氏は対策も提案されているので、ハイレベルなメッセージは氏の著作をご覧頂くとして、筆者なりのソリューションを1つ提案したい。フォーラムで電子ペーパーの説明をした様な中堅の開発技術者は、自分の開発している製品がどの様なビジネスモデルで販売され、使われる”べき”なのかを考えられる様にしなければならないと思う。漠然と利用シーンをイメージするだけでは不足なのだ。例えば、10階建てのビルがあったとして、1階より10階の方が眺望が良い。見える世界が広がれば考える世界も広くなる。誰かが1階にいる彼を10階まで連れて行って、10階から何が見えるかを教えねばならないのだ。

 

10階まで行ったことのある者、つまり、自分が開発している商品がどのビジネスモデルのどの場所にあるかを考えたことのある者の数が増えれば、このような訓練を開発技術者に広く行うことにより全体のレベルの底上げを行えば、その中からアマゾンのJ・べゾスやアップルのS・ジョブスの様に世界のIT市場をリードするリーダーが出現するに違いないと筆者は思うのだ。(因みに、筆者は20代のころ、ソフトウエア・エンジニアだったが、個人的な興味もあって、サミュエルソンの「経済学」を大体読んだ。成る程、世界はこうなっているのか、というのが面白かった。)