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インターネット時代の電話サービスはどう変わるか? (2010//25)

インターネット技術の発展で電話(音声通信)、TV会議サービスの業界構造はどう変化するか?

 

筆者が当時のノーテルネットワークスでDMS-10電子交換機をNTTに納めていた1980、90年代時は、数千万円のDMS-10交換機が毎週何台も地方の電話局に納入されていった。価格が大変安かったのでNTTファミリー企業から大分言われたそうだが、それでも結構高かった。レッドブックというマル秘の赤いバインダがあって、そこには各構成品の原価と世界の標準価格が書いてあって、それを基にNTT向けの値付けをしていったのだが、「え、こんなに高くしていいの?」とか「これは随分安いな」とか色々あった。

 

1995年ころからインターネットが日本で普及し始め、VoIP技術が次第に市場に認知され、NTTVoIP以外の研究開発を止めるとアナウンスした時(2000年)は海外の通信業界の者から「ホント?」と訊かれたものだった。NTTは世界の通信事業者の先を行った賢い決断をした。逆にNTTファミリーは苦い思いをした。発想の転換ができなかった企業もあった。関係者のそんな思いにもかかわらず、技術の変化はそれにフィットする様に業界構造を変えてゆく。というか、変えて適応しなければ食べて行けなくなる。

 

では、IPブロードバンド時代の音声通話、ビデオ通話はどこまで変化し、今後どう変わってゆくだろうか?

 

通信事業者がVoIPを導入して、ユーザは従来同様に電話が使え、且つ料金が安くなって良いことが多いが、サービス提供者、システム提供者には構造的な変化が求められた。先ず、交換機が要らなくなった。筆者が昔NTTに納めたDMS-10電子交換機は今、次々姿を消しているはずだ。 代わりに、VoIPを処理するソフトウエアを搭載したサーバーとルータが主役になった。これらは交換機程高価ではなく、又利幅も薄い為に、交換機メーカはその変化に耐えられず他社と合併したり倒産したりした。筆者が昔勤務していたNortel Networksが倒産したのもこうしたパラダイムの変化に耐えられなかったからだ。

 

VoIPIPアプリケーションとして、他のデータ処理などのアプリと比べて単純だけれども比較的高い料金が取れたので、世界中の多くのキャリアがサービスを提供した。Skypeなどの仮想キャリアがその低料金のおかげでアッと言う間に大量のユーザを獲得した。Skypeは、その運営費用の低さのおかげで高収益を続けていることだろう。

 

更にIP技術が進歩した為になにが起こっているかというと、VoIPの処理が専用サーバだけではなく、一般のアプリケーション処理のシステムに入り込んで来る、ということが起こっている。VoIP処理ソフトを、例えばコラボレーションシステムのサーバに入れ、端末(PC)にソフトフォン相当を入れれば簡単にVoIPサービスが提供できる様になっている。同様の変化はビデオ通信、テレビ会議にも発生している。

 

例えば、SpiritDSP社は音声、ビデオ会議ソフトの世界的なOEMベンダーで、OEMである為に著名ではないが、その顧客はCISCOの様な通信システムの専門企業から、Oracleの様な通信とは無関係だった企業にも及んでいる。SpiritDSPは普通のPCで1000ビデオチャンネルを同時サポートするソフトウエアを発表している。 このソフトを使えばTV会議サービス、音声通話サービスが極めて安価に、手軽に提供できる。サーバのハード費用は知れたものだし、ソフトライセンスも大したことは無いので、このソフトを組み込んだサービスを提供すれば、Skypeが音声サービスで実現した様な高収益サービスが実現できだろう。

 

クラウドを例に取れば、クラウドで提供するサービスにどうやってこの超格安音声/ビデオ通話サービスを取り入れるか、クラウド環境を提供するサービスとして、この超格安音声/ビデオ通話サービスを付加価値としてメニューにどう加えるか、が通信事業者、非通信事業者共通のビジネスチャンスになるだろう。 

 

通信事業者として認識されて来なかったこの様な企業が容易にアプリケーションとしての音声・ビデオ通話サービスを提供できる環境が整ってくるに従い、通信サービスプロバイダの数は増え、拡散し、その定義は霞んでゆくことだろう。