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中国からのウェイクアップ・コール2010/10/30)

日米が協力して中国に国際社会の作法を仕込むというフレームワーク

 

日本経済新聞と米戦略国際問題研究所(CSIS)が主催する「安保改定50周年、どうなる日米関係」というシンポジウムが10月19日日経ホールで開かれたので聞いて来た。

出席者は以下の豪華版だった;

Mr. Dennis C. Blair (前米国家情報長官、元United States Navy Admiral・アメリカ海軍司令長官),

Mr. John J. Hamre (CSIS所長),

Mr. Joseph S. Nye (ハーバード大學特別教授),

Ms. Wendy R. Sherman (元クリントン大統領特別顧問兼北朝鮮政策調整官),

Ms. Sheila A. Smith (米外交問題評議会日本担当上級研究員),

石破 茂氏(自由民主党政策調査会長)、

長島 昭久氏(外務委員会筆頭理事)、

五百旗頭 真氏(防衛大学校長)、

前原誠司氏(外務大臣)、

林 芳正氏(自由民主党議員副会長)、

北岡 伸一氏(東京大学法学部教授)、

薮中 三十二氏(外務省顧問)

朝9時から午後5時半まで密度の濃い内容だった。日経新聞で報告されなかった現場の雰囲気をシェアしたい。

 

シンポの出席者達が日米共に言っていたのは、尖閣列島での漁船逮捕に関連する事件は日米にとって“Wake-up Call”だったということだ。つまり、太平の惰眠を貪っていた日本と安保条約の締結相手国である米国にとって、「起きろ!中国は危険だぞ!」という警告の目覚まし電話だった、ということだ。この事件は、中国が「共産主義体制ながら自由主義経済で発展する国だ」という認識が間違いで、中国は「経済も一党独裁で制御し外国には暴力で侵略しようとする膨張主義の国だ」ということを世界が認識する警報だった、ということだろう。 猫だと思って育てていたら実は虎だった、ということだ。

 

シンポの最後のQ/Aで、「ハワイの西を中国は寄こせと言っている。中国の軍備がこの調子で増大すれば米軍の規模を超えてしまうけど、どうするのか?」という質問をモデレータの北岡氏がBlair氏に振った時、Blair氏は聞こえないふりをしたが、再度促されてしぶしぶ答えた。触れられたくない質問だった様だ。Blair氏は「太平洋をハワイの東西で分けようというのは陸上の人間の言うことで、海洋民族はそうは考えない。海はどの国も自由に通行できる自由な空間のはずだ。中国には、そうはさせない。」と答えた。「そうはさせない」というのは、「中国海軍が米海軍より大きくなることは許さない」という意味も入っているのだろう。タフな軍縮交渉や局地的な戦闘行為が今後増えるだろう。

 

自民党の出席者が、「日本は軍事大国ではなかった。その必要もなかった。その前提条件が崩れている。日米安保条約が、どの様な場合にどう機能するのか、これまで曖昧にして来た点を具体的に検討しなければならない。」と言った。米軍はアラブ対策で多忙だし、日本が軍備を拡大し、米軍と協調して東アジアで米軍の補完をし、中国の膨張主義を抑えてくれるなら良いんじゃないか、という雰囲気だった。米国は、「日本をどこまで守ってくれるんだい?」という日本の不安に応えて安心させる必要があろう。

 

不安といえば、米国側の「努めて楽観的になる必要がある。戦争の原因の一つに不安がある。不安から悲観的なシナリオを描いているとそれが予定調和的に現実になってしまう。」という意味のことを言った。これは政治、軍事に限らず、ビジネスや人生一般に適用できる言葉だ。

 

他に米国側から、Blair「国際社会のルールを守らないと幸せな将来は無いことを中国に教える必要がある。」。 Nye「共産主義、社会主義が死んだ後危険な思想はナショナリズムだ。ナショナリズムは経済的利益への思惑など吹き飛ばしてしまう。」という発言があり、これから東アジアはその方向に進んでゆくだろう。中国は自国のナショナリズムを利用して国際政治を行っている。

 

以前このブログでも書いたが、中国政府は過去数十年、国民に向かって世界の覇権を握る国になると言い続けている。それが具体的には唐代の版図再現+西太平洋を自分の庭にしようというのであれば、尖閣列島は中国にとって太平洋に出て行く玄関になり得る位置にある。 どんな口実を作っても自国領土にしたいところだろう。それにしても、日本というのは、地政学的に見れば、太平洋に出ようという中国の前にどっかと居すわった形で邪魔をしている。

 

国際社会ではパワーが正義であるという事実を次々に突き付けられて途方に暮れているのが大方の国民かも知れない。噂によると、政府が公開しようとしないビデオには、違法漁船に乗り込もうとした海上保安庁の職員が海に落とされ、銛で突き殺された姿が映っているというそうな。事実はビデオを公開するまで分からないが、もしこれが事実なら、中国政府もさぞやり難くなるだろう。