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ミッドウェ―海戦七十年目の「真実」(2012//7)

意識しない思考停止がどんなに恐ろしい災厄をもたらすか

 

今年も早立秋となった。8月は終戦記念の行事が続く月だ。奇妙なことに、マスコミは「敗戦」を「終戦」と言い換えている。誰もそれを糺そうとしない。あれは敗戦ではなく、ただ単に戦争が終わっただけの「終戦」ということになるが、それで日本が総力戦で負けた事実が変わる訳ではない。折しも日本の電機業界はシャープやSONYを筆頭として敗戦処理の最中だ。どうしてそうなったかの記事が新聞、雑誌、ネットに多々あるが、その根底にある原因を本質から指摘した記事として文芸春秋七月号の、「ミッドウェ―海戦七十年目の『真実』」を挙げたい。

 

作家森史朗(もりしろう)氏によるこの報告の副題は「戦局を一変させた敗北。そこにでなされた『敗因』の隠蔽工作をついに解き明かす」とある。この海戦について誰もがそうだと思っているのは、空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍を中心とする機動部隊がミッドウェ―海域で米軍空母を発見し、艦載機に搭載していた陸上攻撃用の爆弾を水上攻撃用の航空魚雷に交換完了し、最初の数機が発艦したところに米軍攻撃機の急襲を受けた、というものだ。空母は航空機を発艦させる為に風上に向かって直進させねばならず、為に敵機の魚雷攻撃を受け易くなり、また甲板上にずらりと並んだ攻撃機に搭載した魚雷が次々に爆発し被害を拡大した。「あと5分あれば」全機が発艦完了しており戦局は全く違っていただろう、と作戦参加者は記録している。筆者などはこの定説の通りに作った映画「ミッドウェ―」を観て切歯扼腕したものだった。だが、史実は違っていた。

 

定説の基になった「第一航空艦隊戦闘詳報」は吉岡忠一少佐が戦艦伊勢の一室で極秘裏にたった一人で書き上げた(創作)したものだったのだ。吉岡氏は著者の質問に対し「そんなみっともないこと、書けますかいな!」と答えている。事実は、連戦連勝に酔った日本軍が米軍の攻撃があるはずがないと思い込み、「敵艦隊発見す」の報告を握りつぶしたのだった。詳細は文芸春秋をお読み頂きたいが、この敗北をきっかけとして日本はずるずると敗戦に引き込まれて行った。戦艦大和の自殺的出撃も、広島、長崎の原爆も、外国軍による日本国土の全面的占領(2000年の日本の歴史上初めて)も、2012年の日本の現状もその延長線上にある。油断の極みというべきだろう。

 

油断というのは一種の思考停止だ。この種の思考停止は至る所で見受けられる。例えば2011年、原子力発電の安全性に関する信仰(思考停止)の為に“想定外”の津波被害で関東一帯が放射能で汚染された。1980年代日本は電子産業を中心とした産業の隆盛のおかげで世界第2位のGNPを誇ったが、その後失われた30年を経験することになった。その他あれもある、これもある。

 

なぜ(海軍でも会社でも国家でも)集団はそうなってしまうのか?人間誰だってそうだと言われればそうだとも言えるが、しかし、アングロ・サクソン族国家の様に戦争に強い国だってあるのだ。筆者なりにその原因を考え、仮説とするのは、文化の型の違いだ。概して日本人は自分の周囲の者の態度を自分の態度として取り込むことが多いのではないか?周囲の者が連戦連勝の為に思考停止になれば自分も多かれ少なかれ思考停止になってしまう。参謀本部や司令部の幕僚や企画部の様な団体のコアの集団がそうなってしまうと組織の外縁部からの異論をまともに検討しようとする雰囲気ではなくなる。

 

実は団体のコア部分には、その様な雰囲気に呑まれないように周囲から離れて、客観的事実を並べ整理し咀嚼した上で抽出した戦略を実行できる組織が必要で、その様な組織を成立させる文化が必要なのだ。